2019-07-29に更新

きっかけ・シリコンバレーの雇用事情

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きっかけ

「音声アシスタント向けの自然言語処理チームで働きませんか?」

LinkedIn のメッセージボックスに Apple のリクルーターからメールが来たのは年が明けてまもない頃だった。その頃僕はシリコンバレーの小さな会社で働いていて、生産性の上がらないマネジメントスタイルに日々ストレスを感じていた。

「まあ、この先ここで働き続けて自分が幸せになれるとはとても思えないし、これはいい転機になるかもしれない。」

そう思って僕は早速返事を認めた。

「連絡ありがとうございます。面白そうな話ですね。もう少し詳しくお聞かせ願いますか?」

斯くして、リクルーターからのメッセージに後押しされる形で、僕は転職活動を始めた。

後になって、日本では GAFA と呼ばれる四大テック企業全てとやりとりをすることになるとはまったく想像もしていなかった。

 

シリコンバレーの雇用事情

ここでシリコンバレー或いはアメリカの就職 / 採用活動事情をご存知ない方のために少し補足しておこう。

終身雇用制度が廃れて久しいアメリカでは人材が常時流動している。それはつまり、転職活動が年中盛ん††であり、それとともに企業の採用活動も年中盛んであるということである。企業の各部門は、新しい予算を獲得すると求人情報を更新し、人事部はそれに見合いそうな人材を探してコンタクトをとる。

LinkedIn は職業や雇用に関連する繋がりを提供する SNS で、リクルーターにとっては候補者を探す恰好の場所になっている。求職中であろうとそうでなくとも、LinkedIn にアカウントを持っていて、自身の職歴や技能を公開していると、このようなリクルーターからのメッセージがよく届くのだ。中には明らかに不特定多数に送信しているものや、聞いたこともない会社から送られてくるものなど、到底返信するに至らないようなものもあるけれど、稀に誰もが知っている大企業の、とても魅力的な案件が送られてくることもある。僕は実務経験数年の駆け出しエンジニアだけれど、リクルーターはなるべく多くの人に声をかけようとするので、僕のような新米にも機会はやってくるのだ。

リクルーターとメッセージのやりとりが始まると、次のステップは彼らと電話で会話することになる。ここでリクルーターは候補者がどのような技能を有していて、普段どのような業務に従事して、次の転職の機会に何を求めているのか(キャリアパスや携わりたい技術など)を聞き取り調査する。そして、自分がどのような求人情報を持っているかを説明する。ここでお互いの興味が一致すれば、リクルーターは候補者を面接のステップに進めるための手続きをする。

面接の流れは会社によって異なっているが、GAFA の場合、大枠は同じだ。まず、電話面接がある。これは候補者の基本的なコーディング技量を測るためで、面接官が課すプログラミングの課題を候補者がオンラインの共有テキストエディターに実装していくというスタイルだ。この時はコードを実際に走らせることもあるが、しないこともある。これは必ずしも正確なコードを書くことが目的ではなく、出された課題に対する分析能力、解答を提案する能力、それを面接官に伝えフィードバックを元に議論を展開するコミュニケーション能力を見るのが目的だからである。

正しいコードを要求する場合の課題は面接官を必要としない自己完結型のサービスを使う場合が多い。今回の僕の就職活動では Amazon がこれに該当した。この場合は課題の URL がリクルーターから送られてきて、自分の都合の良い時間にそれにアクセスして課題を解き、提出するというものだ。Amazon では電話面接の前にこれをこなす必要があった。

電話面接を突破すると、次は実施に会社に赴いての面接になる。オンサイトインタビューとよばれる。オンサイトインタビューはほぼ一日消費する。45分から1時間の面接を最低5回、多い場合は7回行う。これらは3〜4種類の面接から構成される。

  • コーディング
  • 人間性(Behavioral Interview, Leadership Interview などと呼ばれる。)
  • システムデザイン
  • 専門性

それそれの面接官からのフィードバックはリクルーターに返され、リクルーターはこれを所定の手続きに回す。また、ここで見通しが良さそうな候補者で、まだ配属先の見当がついていない場合はチームマッチングが始まる。良いマッチングがあれば、それもフィードバックに加えられる。このフィードバックから合否の決定までのプロセスは会社によって違うとされる。ネット上に散見される情報やリクルーターとのやりとりから得られた情報をまとめると以下のようになる。

Google では 採用委員会 (Hiring Committee, HC) と呼ばれる人々が独立した意思決定を下す。マッチングで決定した配属先のマネージャーは意思決定には関わることが出来ず、マネージャーが採用したいと思っても HC がノーと言うと不採用になる。もちろんフィードバックを提出した面接官はこのプロセスには関わらない。

Amazon ではオンサイトインタビューを行ったその日に、面接を行なった人々が集まって合否を決定する。ここでは各々の印象と他の面接官の意見を参考に、多数決投票が行われる。ただし投票には例外がある。面接官の中には特別な拒否権を持った人がいて、この人物がノーと言うと、残りの投票の結果に関わらず、不採用となる。この面接官は Bar Raiser と呼ばれる。恐ろしい名前だ。「Amazon に採用される人は常に現在のチームよりも良い仕事をする人でなければならない」という Amazon の理念の一つを実装するためにこのような特別な権限を与えられている。

Facebook のプロセスは Google に似ている。一般的に、Facebook ではチームのマッチングは採用前には行われない。採用後に Bootcamp という研修期間を経てチームをマッチングするからだ。しかし、もしチームが先に決まっている場合はチームのマネージャーの承諾も採用決定の一因となる。

Apple は他の3社と異なり、社内共通の採用プロセスがないとされる。各チームが独立して採用活動を行なっており、最終決定はマネージャーによって行われる。

以上がアメリカ(シリコンバレー)のテック企業の大まかな採用プロセスである。

今僕は、この転職活動を終えて、一連の出来事を思い出しながらこれを書いている。様々な人と電話や実際に会って話をしたが、最も強く思ったことは就職・採用活動はとても脆いプロセスだということだった。

LinkedIn や企業側の採用プロセス管理ツールやらコーディング課題のためのプラットフォームやら、どんなに優れたシステムで就職・採用活動を行いやすくしたとしても、究極的には会話という最も基本的な人と人とのコミュニケーションを介してプロセスが進んでいく。

また、このコミュニケーションも、同じ人ばかりではなく、プロセスが進むにつれて担当者が別の人に変わったり、マッチングのプロセスで様々なチームの人と話をしたり、そのどれもが失敗できない緊張の連続である。その上、多くの案件を同時にこなしていると必ずどこかで連絡が途絶えてしまう。舞い込んだ案件に最初のうちは丁寧に返信をしていたが、自分の忙しさとストレスのあまり途中で急に返信するのを辞めてしまった案件もあるし、逆にリクルーターが連絡するのを辞めてしまった案件もあった。職探しというプロセスはとても不安定なコミュニケーションを辿りながら、なんとか自分を認めさせるプロセスなのだ。

第二話へ続く。

 

 

 

脚注
GAFA

僕の経験では、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアとして働いていて GAFA という言葉を使うことはまずない。業界そのものを分析している人は使うかもしれないけれど、ソフトウェアエンジニアとして働いていると、技術や動向なんかに関しては各社の違いの話をするのが主なので、一緒くたにして話すことはまずない。日本からやってきた人が「GAFA が云々」と言って、相手が「がーふぁって何?」と聞き返されるのを何度か見たことがある。ちなみに一度リクルーターからの案件で Subsidary of FAANG と言うのを見たことがある。 FAANG ってなんだ?と思って調べてそれが GAFA + Netflix だと理解するのに少し時間がかかった。多分アメリカではこちらの方が使われるように思える。どっちにせよ会話で使われることはない気がするし、ちょっと不親切な略語かなと個人的に思う。。結局 FAANG 傘下のとある会社という案件はスルーした。

雇用のタイミング

もちろん全ての企業活動には活動予算がつきものなので、採用活動の勢いは予算の具合によって変化する。この記事によると、年明けの予算が確定したタイミングが最も活発になり、(そう言われれば初めての仕事の時は、1月2日にメールがきたなぁ。)、従業員が休みを取る夏に一旦落ち着き、予算を使い切った頃の冬に終了するということだそうだ。確かに、昔とある大企業では12月3日が年内の最終雇い始めの日で、その日をもってHR は正式に年内の仕事納めというケースを聞いたことがある。スタートアップなどは新たにファンドレイジングで予算を獲得するタイミングが最も採用活動が激しくなるということになる。ちなみに採用通知が来るのは火曜日が統計的に多いという話もある。へー。

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view_list [連載] GAFA で就活した回想録
第1回 きっかけ・シリコンバレーの雇用事情
第2回 はじまり
第3回 時勢
第4回 pow(10, 100)
第5回 電話そして電話

然るエンジニア🙊

「GAFA 全社で就活した回想録」不定期連載中です。(書きだめがなくなったのでおそくなります。。。)

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