2月の初め、件の Apple のリクルーターとの電話の為に、僕はお昼休みを使って会社の近くのスターバックスにやってきた。当然のことながら、就職活動は会社の同僚には隠し通さなければならないので、全て秘密裏に行わなければならない。大きな会社ならば会議室を予約してプライベートを確保できるかもしれないが、僕の会社は従業員が10人もいない小さなオフィスなのでそれは叶わなかった。カフェラテとサンドイッチを注文して席に着き、プリントアウトしておいた自分の履歴書に目を通した。今にして思えば、同僚が早めに昼食を済まして食後のコーヒーに来る場合を考えれば、これはとてもリスキーだった。
典型的なリクルーターとの会話では、まず初めにリクルーターが候補者の詳細を尋ねて来る。一例を挙げると以下のようになる。
年収や待遇に関することは面接が最終段階に進むあたりで聞かれることが多いが、予算が厳しい(小さな)会社では最初に聞いてくることもある。†
この時は基本的にこちらが一方的に話すことになるので、事前にリクルーターに共有してある履歴書の内容を踏まえながら、一本のストーリーを組み立てて、詳細を肉付けしておかなければならない。 また、リクルーター以外の人(マネージャーや、配属先チームのメンバー等)と話すときも大体は同じようなことをはじめに聞かれるので、電話が始まる前に自分のレジュメを見ながらこれらの要点を確認しておくと心の準備も整うものだ。
これに答え終わると、今度はリクルーターが自分の持っている案件の話をする。リクルーターが自社の企業の為に人を探している場合は大抵すでに案件を持っていてその中身をここで教えてくれる。リクルーターが人材紹介会社のエージェントの場合はここから案件の選定が始まる。彼らがどのような会社からの案件を持っていて、その内のどれならよく適合しそうかをここで相談する。とは言え、どちらの場合にしてもリクルーターは技術職ではないので、案件の中身はそれほど具体的ではない。大きな会社の場合は雇用のプロセスは数ヶ月かかるので、あまり細かいことを先に決めることもできないと言う事情もあるだろう。
電話で初めての人と話すのは久しぶりのことだったので、僕は緊張していた。頭ではこの会話はプロセスをスタートするためのものであって、直接合否を決定するものではないと分かっていても、リラックスして電話を待つと言うのは難しかった。
予定の時刻になると電話が鳴った。
「もしもし、タローです。」
「やあタロー、Apple のジェームズだ。今 Siri 関連の言語処理チームが機械学習のエンジニアを探していてね、興味あるかな?」
「ええ。」
「じゃあ、追ってマネージャーと繋ぐよ。次の連絡を待ってて。」
そういって、ジェームズとの電話はすぐに終わってしまった。僕はあっけにとられた。ジェームズは僕について質問することもなかったし、僕も積極的に話すこともなかった。肩透かしを食らったようでもあったけれど、特に問題もなかったので気にしないことにした。食べかけのサンドイッチを終わらせると僕はスターバックスを後にした。
第三話へ続く。
ちなみにカリフォルニアを始めとした幾つかの州ではリクルーターが現在の年収を聞くことは違法になっている。これは給与は仕事に見合った形で決定されるべきで、従業員のこれまでの給与を元に給与を決定することは不公平であるという理念に基づいていて、同じ職に就く人々の間で所得の格差、特に女性の男性との格差を是正するための働きかけとなっている。
第1回 | きっかけ・シリコンバレーの雇用事情 |
第2回 | はじまり |
第3回 | 時勢 |
第4回 | pow(10, 100) |
第5回 | 電話そして電話 |
Crieitは誰でも投稿できるサービスです。 是非記事の投稿をお願いします。どんな軽い内容でも投稿できます。
また、「こんな記事が読みたいけど見つからない!」という方は是非記事投稿リクエストボードへ!
こじんまりと作業ログやメモ、進捗を書き残しておきたい方はボード機能をご利用ください。
ボードとは?
コメント