Amazon のコーディングテストを受けてから数日後、オフィスについて車を降りたところでテキサスからの着信があることに気付いた。誰だろうと思って掛け直すと Amazon リクルーターのアマンダだった。
「ハイ、タロー。Amazon のアマンダです。コーディングテストの結果とその次のステップの話をしたくて電話しました。それで、結果なんですけど、」
こちらが相槌を打つ暇も与えずに、切羽詰まったかの様子でアマンダは話し続けた。
「あの、ちょっと今は時間がないので、折り返してもいいですか?えーっと、11時半はどうですか?」
「ええ。わかりました、それでは。」
リクルーターと電話で話をする際のストレスの一つは、こういった急にかかってくる電話だった。リクルーターにとっては候補者と話をすることは仕事の範疇内だが、候補者にとっては範疇外になる。オフィスで電話を取っても、話をするためにはプライバシーの確保できる場所まで移動しなければならないし、メモも取れない状況で様々な要件をまくし立てられても全部は聞き取れない。携帯電話のような低品質の音声で、相手が外国訛りならほとんど何をいっているか分からない。加えて、求職の身はどうしても遜った態度になりがちになる。電話する場合は緊急の場合を除いては前もって時間を指定するメールをしてほしいものだ。その方が話すべき内容も事前に準備できるのでより良いコミュニケーションになる。
そんな訳で、アマンダと話をするために昼前にまたまた例のスターバックスへやってきた。コーディングテストのフィードバックということで、特にヘマをやらかした覚えもないし、次のステップ(電話面接)の予定を決めるのだろうと思い、ある程度の日程に思いを巡らせてから電話に臨んだ。電話に出ると、アマンダは挨拶もそこそこに話始めた。
「それで、コーディングテストなんですけど、良い結果が返ってきました。それで次のステップに進んでもらおうと思っていて、それに関していくらか質問したいんです。」
「ええ、わかりました。」
僕は手元のカレンダーに目を落とした。
「ls と cd が何をするかご存知ですか?」
「・・・はぁ?」とほとんど声に出かかった反応が僕の頭の中では響いた。
「え? Linux のコマンドの話ですか?」
「ええ、そうです。ls と cd が何をするかご存知ですか?」
「こいつ何言ってんの?」と思いながら、僕は答えた
「ls は現在のディレクトリの中身を表示します。cd は引数にディレクトリをとれば、そのディレクトリに移動しますし、そうでなければ、ホームディレクトリに移動します。」
「なるほど、分かりました。ハッシュマップの利点と欠点を教えてもらえますか?」
「ハッシュマップっていうのはデータ構造の話ですよね?」
「ええ、そうです。」
「えーとまず、ハッシュマップはコンスタントタイムでのリトリーバルを実現しますね。欠点はバケットのサイズが固定なので、アイテムの数がバケットのサイズに比べて小さい場合にはメモリが無駄になるかと思います。」
ハッシュテーブルの話などここ数年していなかったので、ぱっと聞かれてまとまった答えを返すことは叶わなかった。後になって、欠点のメモリの話をする前提のバケットによるハッシュ関数の話をするのを忘れていたことに気付いた。今になって思うと、多分「通常の配列と違いインデックスによるリニアアクセスが出来ない」とかが期待されていた模範回答だった気がする。当たり前すぎるが。
「Post-Order Traversal とはなんですか?」
「木構造の Depth-first Seatch の話ですよね?」
木構造がインタビュー必出の話題とは言え、その前提を飛ばすとはなかなか不親切な聞き方をしてくれる。
アマンダは他にいくつかのアルゴリズムとデータ構造に関する質問をした。僕はたじろぎながらなんとか答えをひねり出していった。
「分かりました、ありがとう。以上で聞きたかったことは全部です。今日の結果を踏まえたフィードバックを提出しますので、また連絡しますね。」
「ええ、ありがとうございます。」
なんとも腑に落ちないモヤモヤした気持ちを抱えながら、僕は店を後にした。不意打ちの電話に加えて不意打ちのテストとは。
ただ、気になるのは、果たしてアマンダには僕の返答をきちんと理解する知識があったのだろうか?受け答えの感じからして彼女が前もって用意された質問リストから質問を選んでいるのは明らかだった。今日の問答は誰によってどうやって評価されるのだろうか?効率重視の Amazon のことだからおそらく彼女が電話越しに丸バツの判断を下しているのだろう。結果は果たして。。。
第十話に続く。
第6回 | コーディングテスト - 練習編 |
第7回 | コーディングテスト - 実践編 |
第8回 | 不意打ち |
第9回 | 番外編:最近のプライバシー関連の報道で思い起こされる話。 |
第10回 | 待てど暮らせど |
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