この記事では、生活音を用いた音楽作品について取り扱います。
皆さんが良く知っている音楽といえば、歌手が歌を歌って…裏ではギターやピアノ等の楽器が鳴っていて…それがAメロ、Bメロ、サビ…と続く、と想像すると思います。
もちろんこれだけではありません。『情熱大陸』は歌は無く、葉加瀬太郎さんのバイオリンが印象的な音楽です。『ルパン三世のテーマ』も、歌詞はありませんが、BGM(バックグラウンドミュージック)という、劇中のワンシーンを盛り上げるために裏で流れている立派な音楽です。
上記の音楽には楽器が使われています。その一方で、生活音は音楽制作に適しているものではありません。音を鳴らす目的で作られたものとは違い、日常生活で"たまたま生まれた"音だからです。
ですが、その生活音を敢えて音楽に取り入れることで、新たな表現を生み出そうとする試み(以降、アンビエント音楽と呼ぶ)があります。
上記で説明したアンビエント音楽について参考にした動画があるので、掲載します。
参考①
『【PV】生活音で音楽作ってみた。』
https://www.youtube.com/watch?v=Iw86BmTjrOk
一般的な楽器を用いたリズム音をベースにしながら,自動販売機のボタンを押す音や,カフェ店内の音,歩行者の歩く音,工事現場などの都会の音をアクセントとして用いた音楽作品です。
参考②
『【ハウスミュージック】生活音を集めて曲を作ってみた』
https://www.youtube.com/watch?v=9EoT04KhG3k&t=6s
携帯電話の着信音,ガスコンロの点火の音等の生活音のみを使用した作品で,生活音の音源素材は,音程(音の高さ)や再生速度の加工がされて用いられています。
生活音を用いて制作された音楽の事例では、生活音を音楽に取り入れること自体が主なテーマとなっており、それ以上の関心は特にないものが多い印象がありました。
そこで発想を変えて、単に生活音を音楽に取り入れるだけではなく、使用する生活音を特定の場面のものだけ使用し、特定の順番で流すことで、聴き手にその場面を音だけで伝えることが出来るのではないか?
実際に、従来のアンビエント音楽にストーリーを設けて制作してみました。
ここで製作する音楽には楽器は一切使用しません。もちろん、歌ったり言葉で説明されるということもありません。
あくまで、アンビエント音楽にストーリーを設けて制作した場合、聴き手にそのストーリーを汲み取ってくれるか、というのを検証してみます。
協力者に聴いてもらう作品のテーマは「通勤・通学前の朝の身支度」です。
一般的な朝の身支度では,食事や身だしなみを整える作業など,複数の異なる作業が連続して実行されることが多いので、再現しやすいと思い、このテーマにしました。
1.生活音を集める
生活音はフリー効果音配布サイトから収集する。
2.作曲ソフト(DAW)で実際に制作
『Studio One 4 Professional』(図1)を使用して、収集した生活音の素材を取り込み、「通勤・通学前の朝」というテーマに合うように、音を配置していきます。
図1『Studio One 4 Professional』内での制作の様子
図1の左の列が、使用している効果音の種類です。
『朝』のイメージに合いそうな生活音を集めて、ソフト内に読み込ませています。
そこから右側は、実際に再生される音声を可視化したものです。カラフルな四角形の物体が散りばめられていますが、それが左から順番に再生されます。
作品自体の流れ
(生活音はこの順番に配置している)
◇起床(寝室)
・目覚まし時計アラーム音
・目覚まし時計のボタンを押す音
・かけ布団から出る音
◇歯磨き(洗面所)
・歯ブラシを擦る音
・水を流す音
◇食事(キッチン、リビング)
・電子レンジ起動音
・ガスコンロの点火の音
・グラスに飲み物を灌ぐ音
・飲食の音
・椅子に座る音、椅子から立つ音
◇身支度、外出(玄関)
・服が擦れる音
・財布の中を見る音
・靴を履く音
・街の環境音
◇全体
・時計の秒針の音
・家を歩く音
・扉を開ける音
時間は1分30秒程度
生活音は音量の差が激しいため、音量調節に『Ozone 9 Advanced』というDAW専用ソフトを使用しています。
3.実際に試聴してもらう
協力者(大学4年生4名)に、事前説明無しに制作した音楽作品を試聴してもらいます。制作方法や専門知識も教えていません。聴き手として純粋に評価してもらいます。
また、生活音で想像してもらう趣旨なので、映像はありません。
※協力して頂いた人の試聴時の様子
4.感想を聞く
試聴後、「この音楽を聞いて,どのような場面を想像したか」と質問し,作品のテーマの重要なキーワードである「朝」という言葉が含まれる感想がどの程度の割合で得られるかを検証する。
重要なのは「朝」と言う感想が出るかという点です。「家の中」や「通勤・通学前」といった感想は、作品内の要素の一部なので正しいテーマとは言えません。
協力者4名全員から「朝の風景が想像できた」という感想を頂きました。
つまり、全員が作品の第1印象を「朝」と捉えていたので、検証は成功です。
思いの他、簡単に成功しましたが、何故「朝』を伝えることが出来たか?
私の考察を話します。
検証が成功した理由として2つ考察しました。
まず1つ目は、再生される音の「順番」です。
人間が「常識」として認知しているであろう「朝」に聞こえる音の順序をこの作品で再現したことで,作品の狙い通り「朝」の場面を想像させることができたのではないでしょうか?
例えば,目覚まし時計が鳴っている場合,多くの人は,次に聴こえる音は
「目覚まし時計のボタンを押す音」、次に「かけ布団から出る音」,部屋の「扉を開ける音」というように,一種の予定調和のような認知が働いたことが,狙い通りの結果を得ることに貢献したのだと感じました。
もし,全ての生活音が順番に関係なくランダムに再生されていたら,「家での生活」や「食事」など、微妙な解釈の違いを起こしていた可能性があります。
2つ目は、「種類」です。
目覚まし時計が鳴っていれば、「朝」の風景であることは限定されてしまう可能性が高いです。
目覚まし時計が鳴るシチュエーションは、大抵は「朝」だからです。
他にも洗面所での歯磨きや、窓から聴こえる鳥の声等、その生活音が聞こえるシチュエーションが限られているものが多く、メインテーマが筒抜けであったことも要因だと感じました。
如何だったでしょうか
この記事の結論としては、「生活音だけでテーマを伝えることは出来る」でした。
しかし問題点もあります。
メインテーマに誘導されるものが多く、聴き手の想像する風景の選択肢が少ない状態でした。
この記事の続きがあるとすれば、使用する生活音をもっと増やし、テーマもより限定的に設定すれば、今回の検証では得られなかった課題点や工夫の方法などが明らかになるかもしれません。
以上で終わります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
youtube.com "【PV】生活音で音楽作ってみた。"
https://www.youtube.com/watch?v=Iw86BmTjrOk
(2020年9月参照)
youtube.com "【ハウスミュージック】生活音を集めて曲を作ってみた"
https://www.youtube.com/watchv=9EoT04KhG3k&t=6s
(2020年1月参照)
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